第三回「美術教育ってなに?」ゼミ開催しました!




●テーマ:「鑑るということ」 
●開催概要● 
日時:3月7日(土) 
時間:17:30~ 場所:元住吉 会場ギャラリー柯(えだ)  
●当日の流れ● 
15:00 アトリエ5作品展子供会場鑑賞 
16:30 大人会場へ移動・鑑賞 
17:00 開場 
17:30 自己紹介、コーヒータイム 
18:00 鑑賞の感想を交えて座談会 
19:00 まとめのお話、交流会開始 
21:00 解散  


●前回までの「美術教育ってなに?」ゼミの内容●
【1回目】:イントロダクションとして、過去にどんな美術教育を受け、お絵描きに対する 自分の思い出を共有しました。特定のテーマを詳しく話すというよりは、トピックの洗い 出しをしていった回でした。 
【2回目】:1回目を引き継いでテーマをしぼり、「よく観るということ」というテーマを 設定しました。 第1回ではゼミの最中にクロッキーを描きましたが、第2回では「楽しみは~~とき」と いう短歌を作りました。参加者は学生が多かったのですが、自分たちの生活を改めて振り 返ってみるきっかけとなりました。「よく観ること」は絵を描く時だけでなく、例えば社 会の動きを捉える際にも共通して重要なことで、美術教育の枠を外したところでも通用す る大切なエッセンスであるという事を共有しました。 詳しくは前回までのレポートをご覧ください。 


●アトリエ5作品展鑑賞● 
作品展は2年に1回。作品展のために作品を作るのではなく、作りためた作品で選考会を 行っているそうです。子供会場と大人会場は少し離れた場所にあり、今回初めて意識して 違った会場づくりをしたそうです。 子供会場では小学生までの作品が一人3枚にまとまって展示されていたり、「悦子先生」 のクロッキーが年齢ごとに展示されていました。絵の他にも、フェルト、刺繍、人形、コ ラージュ(写真の切り張り)など、多様な表現手法の作品が展示されていました。大人会 場には、油絵、クロッキー等が展示されていました。ゼミの参加者は作品を鑑賞し、目に とまった作者へメッセージカードを書きました。 
●自己紹介タイム● 
前回に引き続き、今回も様々な分野の学生(おもちゃ、社会起業、教育、フェアトレード 、環境教育、保育、建築、福祉,,,)が集まりました。また、今回はアトリエ5さんの作品 展があった関係で、作品を出品している大人の方、他のアトリエをやっていらっしゃる方 、OGの方、中学生まで集まり、和やかな雰囲気でした。 
●作品展の感想を共有●
ゼミに入る前に作品展を鑑賞しているので、みなさん様々な感想を持ってきていました。 今回はそれらの感想をもとにゼミを進めたので、ここで少しご紹介したいと思います。  
★作品として展示されたものを鑑るのは中高以来で久々で、とてもいい経験となりました 。小学生はこんな絵を描くのかということを感じ面白かったです。大人会場では、すばら しい作品を前に素人の私がコメントを書いていいものかと気後れしました。どう書いてい いのか、と少し戸惑いました。 
★昔から絵はうまい、下手というものが数字に出ないので好きではなく自分の絵にしか興 味を持てずにいましたが、今日は一枚一枚面白いなと感じたので、子どものときの作品の 見方と、大人になってからの作品の見方は違うのではないかと思いました。ある作品を鑑 る時、絵と自分という二者ではなく、作者がいるということ、どういう想いで絵を描いた のだろう、という思いが生じて絵の見方が変わりました。  
★幼い子どもの絵では、「普通あり得ないもの」が絵の中にでてくるので驚きました。今 の自分はどのように 思いながら描くか、見る人にとっても描く人にとっても、それがどういうことなのか興味 がわきました。  
★描いている場にいたら面白いだろうと思い、描いている姿を想像しました。「ビックな かぶ」 という作品で茎が特にみずみずしく強調して描かれていたことが印象に残りました。  
★毎回アトリエ5の作品展に来て色々な事を感じます。今回も作品展をみて、描かれてい る悦子先生自身の変化感じました。作品のスタイルも新しい挑戦がたくさんみられました が、悦子先生のクロッキーやティッシュ箱のデッサンなど、ずっと変わらないモチーフを 扱うことも大切だと思いました。卒業した私が鑑賞しながら「自分もやったな」と思い出 せるのと同時に、何人の人がこれをやったのかと考えました。  
★自らも滋賀県でアトリエをしているため、作品展の会場でどの様にお客さんがみてくれ るか気に掛かりました。生徒さんの作品が1人につき3点あったので生徒さんの三面をみ れたという意味で満足感がありました。 作品の展示に関しても、ごちゃまぜすぎず、あっさりみることができ、充実した展覧会で した。 
★作品を2時間も集中してみることがめったになく、大変でした。私はアトリエで今習っ ていて、今回初めて展覧会に出展しました。一個の作品を作ることが大変だということが わかり、うるっとしました。作者が色んな想いを持っているということを感じました。  
●座談会● 
感想をもとに進めていった中で面白い話がたくさん出てきました。 どれも、会話のやり取りの中でうまれた話題です。主に、辻先生がおっしゃった内容をま とめてあります。
【同じものを見ているのに同じじゃない】
同じものを見ているのに同じじゃない。かぶというモチーフを自分のものにしている。見 て、触る。においをかぐ。描く対象を観るだけのときとはちがって、受けた印象や感覚が 線に反映される。 「自由に描いていいのよ。好きにしていいのよ(のびのび)」と放ってしまうのは危険で ある。専門性を持っている人(指導者)がいるのに、それでは勿体ない。表現の核に灯を ともしたら見守ればよいと思っている。  
【人形劇について】 
学生:子どもの作品展には絵だけでなく、工作や人形もありましたね。 辻先生:これらは以前、アトリエ5と劇団ひとみ座がコラボレーションし、見事実現させた 『人形劇』で用いられた作品。劇はそもそも、台本に登場する役があらかじめ決まってお り、それを演じるのが普通だけど、辻先生の考え方は違った。辻先生はまず登場人物を先 につくり、その上で、集まったキャラクターでどんな話をつくれるかをみんなで考える方 法をとった。制約として、湖周辺での話という設定のみを与えた。子どもたちが考えてき たものは皆バラバラで、関連づけるのが無理そうな案もある中、なんとかまとめてストー リーをつくった。もちろん話作りは難航したけれど、とても面白いものだった。  
【大事なことは変わらない】 
学生:「悦子先生のクロッキー」は、なぜやり続けるのか? 辻先生:クロッキーは自分の線をつかもうとする大事な時間である。短く時間を区切ると ころで、深くみることにつながる。白いところに鉛筆で線をひくことが「楽しい」と感じ 、線と自分の気持ちが一致していく。色でごまかさず、線を磨くことになる。 3歳くらいの子どもは「みてかく」ということを嫌がる。しかし、ぐちゃぐちゃの線でも 線をかくこと自体が気持ちよいと感じて、1冊のスケッチブックが終わる頃には線をかく ようになる。 ずっと対象が変わらず、「ずっと悦子先生」のほうがどの様に線を描くことを獲得したか がわかる。 背伸びをして上手に描こうとするのではなく、今の自分の線を描いていく。線が変化し、 形が変化していく。それを年齢を追って展示したことで会場の人に伝えたかった。  
【展示方法について】 
鑑賞の場として、美術館や博物館、デパートの上などがあるが、会場構成が重要である。 どの様に並べて、感じていただくかの準備と、表現する、表す技術を磨く。そうした「み せかた」に時間がなく、ウエイトがおけない現場の方が多いと思うが、私は非常に意識し ている。  
【タイトルについて】 
タイトルをつけるのは、見に来てくれるお客様に対して作者ができる”最後の誠意”だと 思う。アトリエ5ではタイトルは最後につける。 神奈川ビエンナーレ国際児童画展に、白菜の絵を出展した。大賞をとった作品の名前が「 冬野菜の王様」であった。「白菜」でもよかったのだが。言葉をみがくこと、言葉を選ぶ ことも大切で、いろんな表現をつかい、どういう想いで描いたのかを伝える最後のチャン スである。視覚的にも落ち着くようにわざとタイトルを書く紙の幅を狭くしている。  
【作品を鑑た人と、作品を作った人の交流】 
参加者の中で特に印象に残った作品についてと感想を持った人と、その作品の作者がゼミ の場にいたので二人の交流が実現しました。本来であれば、作品を作った人とみる人は話 せないことが多いので、貴重な時間になりました。とても面白いやり取りなので以下に詳 しくご紹介します。 学生:作品と自分との間に作者がいる。作者の想いがなければ描けない絵だと思った。「 思い出す冬」(油絵)をみて感じた事、想像した事、それは作者の想いと一致する事が大 切なのでしょうか。僕はとにかく、イメージとしては悲しいとか、寂しいとか、懐かしい とか、そういったものを感じた。 作者:一年前に描いた作品であるが、今回出展にあたって題名に想いを込めたいと考え、 言葉を選ぶことの大切さは辻先生から言われていました。先生のアドバイスをもとに、当 時の日記を読み返して思い出してみました。 そうすると作品を書いていた時期にその前のことをよく思い出していた。思い出している ことを思い出していたり、そのころきいていた曲や香りや空気なんかを思い出して、「思 い出す」という言葉がでてきたので「思い出す冬」という題名にしました。そういう意味 では、懐かしいというのは近いかもしれません。 感想:なるほど、タイトル自体に作者がいると気づいたのがおもしろかった。 辻先生:制作にあたって、しっかり取り組むとブレず想いがに伝わる。どんな風にモチー フと向き合ったか、余白の取り方、言葉の選び方など、しっかりやりきる。それが次の作 品をうみだすことにもつながると思う。  
【作品を「鑑ること」】 
作者の思いをくみとりながら、鑑てくれたらいいなと思う。 ピカソとかゴッホ、ルノアール等いろんな作品に出会ったときに、彼らにメッセージカー ドを書くような 気持ちでみると面白い。例えば、「あなたはこの作品にどんな想い入れがありますか?ちな みに私はこう○○に思いました」のようなこと。 画集ではなく本物をみてほしい。作者が制作時にいたのと同じ位置に立つということと、 同じ距離で作品と出会うということそれが楽しみ方ではないか。鑑賞からなにが生まれる のかは、作品を鑑る側の想像力が試される。こうして丁寧に鑑ることによってどんどん感 受性が鍛えられ、深まっていく。作者と自分とのコミュニケーションのつもりで、今日の メッセージカードと同じようにゴッホさんに、ピカソさんに・・・本人にメッセージを伝 える気持ちでみてほしい。  
●交流会フリートーク● 
交流会では、コトナで手づくりのおにぎりやお菓子を食べながら自由に語り合いました。 お集まりいただいた方々と世代を超えてお話でき、コトナとして「こども」とも「おとな 」とも対話するよい機会になりました。これで三回続きのアトリエ5さんとの共催「美 術教育ってなに?」は終了しました。参加していただいたみなさん、アトリエ5の辻先生ありがとうございました。アトリエ5さんの魅力がたくさん詰まったゼミとなりました。今後はテーマを変えながら「コトナゼミ」「お出かけゼミ」等開催していきますのでよろしくお願いします。(詳細は随時NEWSに掲載します。) 文責:安藤愛